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函館地方裁判所 昭和62年(わ)94号 判決

本店所在地

函館市大手町二二番一四号

登喜和産業株式会社

(右代表者代表取締役役 庄子正治)

本籍

函館市元町五番地

住居

函館市中島町三八番一-七〇一号

会社役員

庄子正治

大正八年七月二五日生

右登喜和産業株式会社に対する法人税法違反、庄子正治に対する法人税法違反、所得税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官天野智治及び弁護人嶋田敬昌各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人登喜和産業株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人庄子正治を懲役二年及び罰金一五〇〇万円に各処する。

被告人庄子正治において右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人庄子正治に対し、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人登喜和産業株式会社は、肩書地に本店を置き、超硬鉱山器機及び超硬工具の製造及び販売等を目的とする資本金四〇〇〇万円の株式会社であり、被告人庄子正治は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人庄子は、被告人会社の取締役総務部長東海林義忠と共謀の上、被告人会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空仕入及び仕入の繰上げの計上並びに在庫の一部を除外する等の方法により所得を秘匿した上、

一  昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億九三八七万三二七三円であり、これに対する法人税額が七六五五万八六〇〇円であったのにかかわらず、同年五月三一日、函館市新川町二六番六号所在の所轄函館税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億一三八四万一九九〇円でこれに対する法人税額が四二九五万五八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告税額との差額三三六〇万二八〇〇円を免れ、

二  昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が二億〇六六二万七一九九円であり、これに対する法人税額が八三四五万三二〇〇円であったにもかかわらず、同六〇年五月三一日前記函館税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億二八五七万八八〇四円でこれに対する法人税額が四九六六万五六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告税額との差額三三七八万七六〇〇円を免れ、

三  昭和六〇年四月一日から同六一年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額か二億〇九〇〇万八〇八一円であり、これに対する法人税額が八五四九万〇一〇〇円であったのにかかわらず、同年五月三一日、前記函館税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億三七五九万七八七〇円でこれに対する法人税額が五四五八万〇三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告税額との差額三〇九〇万九八〇〇円を免れ、

第二  被告人庄子正治は、函館市中島町三八番一-七〇一号に居住しているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、商品先物取引に係る売買益の一部を除外する等の方法により所得を秘匿した上、

一  昭和五九年分の実際の所得(但し、利子所得及び一部の給与所得を除く。以下同じ。)金額が九九八四万一〇三二円であり、これに対する所得税額が五一三三万五九〇〇円であったにもかかわらず、昭和六〇年三月四日前記函館税務署において、同税務署長に対し、所得税額が六九一八万六〇三二円で、これに対する所得税額が三〇五〇万〇五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額二〇八三万五四〇〇円を免れ、

二  昭和六〇年分の実際の所得金額が一億一一五二万三二七四円であり、これに対する所得税額が五九五七万七四〇〇円であったにもかかわらず、昭和六一年三月一三日前記函館税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二一八五万一九五二円で、これに対する所得税額が一八七万三六〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額五七七〇万三八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人会社代表者兼被告人庄子の当公判廷における供述

(但し、第一回公判における部分は、被告人庄子についてのみの証拠)

一  被告人の検察官に対する昭和六二年五月一三日付け供述調書

一  大蔵事務官作成の調査事績報告書

判示第一の一、二の各事実について

一  被告人の検察官に対する昭和六二年四月一四日付け供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和六二年三月三日付け質問てん末書A

一  東海林義忠(二通)、庄子宣政、小笠原彰司(二通)、山本利一及び児玉三郎の検察官に対する各供述調書

一  東海林義忠(昭和六一年七月二九日付け、同月三〇日付け、同年九月二日付け及び同年一二月八日付け)、小笠原彰司(二通)、山村富男(同年一一月一四日付け及び同年一二月一七日付け)、児玉三郎(同年一二月四日付け)、山本利一、三上幸子(二通)、加藤千恵及び海藤光男の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(A)、前記繰越商品調査書、当期仕入高調査書、当期繰越商品調査書、事業税調査書、受入利息調査書、現金及び預金調査書、受取手形調査書、製品及び原材料調査書、前渡金調査書、買掛金調査書、未払金調査書、未納事業税調査書、減価償却費の超過額及び認容額調査書、機械装置調査書、

一  登記簿謄本

一  押収してある法人税決議書綴一綴(昭和六二年押第三四号の1)

判示第二の一、二の各事実について

一  被告人の検察官に対する昭和六二年四月二四日付け供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和六一年一二月二〇日付け、昭和六二年一月二〇日付け、同月二一日付け、同年二月四日付け及び同月五日付け、同年三月三日付け(B)、同月一〇日付け大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  東海林義忠(昭和六二年二月三日付け)、小野巌(三通)、大島眞美及び宮武和之の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(B)、手数料控除後の売買益調査書、利子割引料調査書、雑費調査書、委託証拠金(現金)調査書、申告売買益金額調査書

一  押収してある昭和五六年分~六〇年分所得税の確定申告書綴一綴(前同押号の2)

(法令の適用)

被告人庄子の判示第一の一ないし三の各所為は、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に、判示第二の一、二の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、判示各罪について情状によりそれぞれ懲役刑に罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額(情状により、判示第一の一ないし三の罪については法人税法一五九条二項を適用していずれも五〇〇万円をこえ免れた法人税の額に相当する金額以下とし、判示第二の一、二の罪については所得税法二三八条二項を適用していずれも五〇〇万円をこえ免れた所得税の額に相当する金額以下とする)を合算し、その刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役二年及び罰金一五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用して、被告人庄子に対しこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。そして被告人庄子の判示第一の一ないし三の各所為はいずれも被告人会社の業務に関してなされたものであるから、被告人会社に対してはいずれも法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑が科せられるべきところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金(情状により法人税法一六四条一項、一五九条二項を適用して、いずれも五〇〇万円をこえ免れた法人税の額に相当する金額以下とする)の合算額の範囲内で同被告人を罰金二〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人会社につき三事業年度にわたり合計約二億二九〇〇万円の所得を秘匿し、合計約九八〇〇万円の法人税を免れ、また被告人庄子につき二年度にわたり約一億二〇〇〇万円の所得を秘匿し、合計約七八〇〇万円の所得税を免れた事案であるものであるところ、そのほ脱税額自体いずれも巨額であって、申告納税制度を揺がす悪質なものというべきである。そして、法人税法違反については被告人会社の代表取締役社長であった被告人庄子が約一〇年前から自ら提唱して会社の利益隠しを図り、毎年度営業効果表に基づき、総務部長に申告所得額の大枠を指示し、これを受けて総務部長の指揮のもとに同会社社員が在庫の除外、仕入の繰上げや架空仕入計上の操作のため、帳簿や伝票を改ざんするなどし、子会社をも巻き込み、会社ぐるみの組織的脱税工作を行ったものであって、その大胆、巧妙かつ計画的犯行態様に照らすと、被告人会社及びその主謀者たる被告人庄子の刑責は重大と言うほはかない。

なお、その脱税の動機は主要取引業界である石炭産業の斜陽化に伴い、将来の業績不振に備えて会社内部に利益を保留しておこうとしたというものであるが、つまるところは被告人会社の私利私欲の追求にあるのであって、殊更に酌むべき事情とはいえないものである。

また、所得税法違反については、被告人庄子は、かねてから架空名義で商品先物取引を行なっていたものであるところ、昭和五七年度、昭和五八年度の所得税申告に関し、七〇〇万円、四八〇〇万円にのぼる各売買益を申告しなかったことが発覚し、所得五九年七月修正申告のやむなきに至ったものであるが、その後も新たに五つの架空名義を創出し、既設の三つの架空名義を併せ八つの架空名義を用いて商品先物取引を行なって収益を挙げながら、税務当局に知れている既設の架空名義分の取引による売買益についてはその大部分について所得申告しながら、それ以外の名義による売買益についてはなお秘匿して本件各犯行に及んだものであり、その売買益中の秘匿部分は昭和五九年度分につき約三八パーセント、昭和六〇年度分につき約九八パーセントにのぼり、ほ税率も昭和六〇年度分については九六・八パーセントの高率に及ぶなどその態様は悪質巧妙であって、犯情悪質といわなければならない。その犯行の動機も先物取引での損失に備えての利益隠しであって、何ら酌むべきものはない。

他方、本件の発覚後被告人両名はそれぞれ修正申告の上正規の税額を完納したほか、自業自得とはいえ多額の重加算税及び延滞税を課せられこれを納付するなど、脱税被害は既に回復し、かつ相当な行政上の制裁を受けるに至っている。

更に、被告人会社は、昭和二二年の設立以来これまで石炭業界の業績向上に寄与し、地元経済界にすくなからざる貢献をしてきたと認められる。次に、被告人庄子は、長年各種団体の役員や公職にあって地域社会に貢献してきたが本件が発覚した後、自らの創業にかかる被告人会社の実質的経営者の地位を去り、全ての公職を辞して謹慎していること、本件がマスコミ等で報道されそれなりの社会的制裁をうけていること、前科前歴を有しないこと、現在六八歳の高齢であって脳梗塞の疾患を有していることなどの事情も認められる。

そこで、これら一切の事情を勘案し、主文掲記の刑を量定するのを相当と思料した。

よって主文のとおり判決する。

(求刑 被告人会社罰金三〇〇〇万円、被告人庄子懲役二年及び罰金二〇〇〇万円)

(裁判官 佐藤陽一)

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